2014年F1第4戦中国GP
あらすじ
前回バーレーンGPのあと、引き続いて久しぶりのインシーズンテスト及びタイヤテストが行われた。が、まあ、特筆すべきことはなかったように思う(ちょっと最近忙しくてヘッドラインしか見てない)。以下、特筆すべきトピックをいくつか。
フェラーリ代表、更迭
2008年から6年間フェラーリを率いてきたステファノ・ドメニカリが、ついに更迭された。
明らかに結果を出せていなかったどころか、ここ数年のフェラーリと言えば「豪華なドライバーと豊富な資金と絶大な権力を持ちながらもピットやチームがどうしようもないミスを連発して負け続けるお笑いチーム」として確固たる地位を築いてしまっていたので、ティフォシの皆様としてはあまりに遅い更迭というところではないだろうか。
ティフォシではない日本人に関係がありそうな点と言えば、可夢偉。2013年度のフェラーリ契約についてはドメニカリの関与が大きかったと伝えられており、2014年度の更新オファーを蹴った際にも、ドメニカリからの慰留があったと語られている。
今年ケータハムで結果が残せずシートを完全喪失した場合、フェラーリに戻れる可能性は下がったと見るべきだろう。ま、今はそんな後ろ向きなこと考えてる場合じゃないだろうけどね。
なお、後任にはマルコ・マティアッチが就任している。
…誰?
レッドブル敗訴
燃料流量センサに関連する争議はレッドブルの敗訴で決着した。これにより、第1戦マレーシアGPのリカルドのリザルトは剥奪されることが確定。まあ、そりゃそうでしょう、という感じ。ただ個人的には、この件はリザルト云々が問題ではなく、
- センサの精度(誤差/個体差)は公平なレースが可能なレベルの物なのか
- 誤差の原因はセンサ由来なのか、RBR/ルノースポールのインストール作業に問題があるのか
- FIAが各チームに提示する補正値は公平・適正なのか
- 数回発生しているセンサ故障への対応は適切なのか(故障しても代替手段…ECU燃料噴射コントロールからの算出で公平なレースが可能ならばそもそも流量センサは不要なのではないか)
といった辺りこそ主題だと思っている。今のところ「リカルドの失格が確定」という話しか聞こえてきていないので、これって話が何も進んでいないですよねえという感じでモヤモヤ。
マルシャ・モータース事業停止
マルシャF1の母体であるマルシャ・モータースが全事業の停止を発表したため、マルシャF1が即時撤退するのではないかと騒ぎが起こる。しかし直後、マルシャF1のオーナーシップは事前に譲渡済みであり(恐らくはモータースの事業停止を見越したものだろう)、直接の影響=即時撤退はない、という公式声明が出されている。
しかし、「それならもう安心だね!」というわけではないのは歴史が語る通りなのだが…。譲渡先のマルシャ・コミュニケーションズという会社も正体がわからないし。(妄言を言うならば、F1誘致にご執心だったと言われるプーチンが、念願のロシアGP開催を目前にしてみすみす自国チームを潰すだろうか?実際、マルシャ・コミュニケーションズは国の資本が流れるダミー企業ではないかという話もあるようで…)
マルシャの撤退でケータハムのコンストラクター順位が上がることにはなんの価値もないどころか、むしろマイナスだと考える。評価というのは基本的に相対的なものだし、特に非ワンメイクカテゴリであるF1においてはなおのこと絶対評価が難しい。可夢偉が評価されるには、対マルシャ成績という相対的な評価軸が最低限必要だ。マルシャにいなくなられては困る。
新興チームの運営予算というのは非常に切実な問題で、先日トップチームの反対により破談となった来季バジェットキャップについての話し合いにも、少しは影響を与える出来事かもしれない。
FP~Q
金曜(FP1,FP2)
- 金曜日は曇り。気温は10度台中盤とかなり寒く、路面温度も高くて25℃くらい。例年と比較してもかなり低い気温のようだ。夜のバーレーンよりも少し寒いか?しかも土曜は雨の予報。ほんとコードマスターズのゲームかってくらい雨降りますね、今年は…。
- オンボードの映像に黒いノイズが飛んでいるのが気になる。最初はマーブルが飛んできてるのかと思った。
- FP2、ピットエントリーの急コーナーでマルドナドがクラッシュ。実際あのコーナーはミドルストレートで突っ込んで道が急にカクンと曲がるので怖い。ゲームで走るのもイヤなんだよね。
- FP2終了後、国際映像に満面の笑顔でピット裏を走るアロンソの姿が挿入されてスタジオに笑いが起こる。なんだあれは?w いつ撮られたんだろう。しかし、アロンソのあんな笑顔はずいぶん久しぶりに見たような気がする…。新体制だ、頑張れフェラーリ。
FP3
- 予想通りの雨模様、気温14℃路面16℃付近。しかし大雨は来ておらず、インターミディエイト寄りのコンディション。
- あまり走らないドライバーが多い。どうやら予選はドライまで改善すると読んでいるようだ。メルセデスもインストレーションしか走っていない。
- あまりにみんな走らないので、終盤、国際映像が可夢偉独占放送に。ラジオで「タイヤの動作温度域から前が10℃、後ろも5℃低いのでもっと熱を入れながら走れ」と言われているが、そもそもダウンフォースが全く足りていないようで、熱入れどころかブレーキを踏めばフロントがふわつくし、コーナー出口では毎回のようにスライド。これでは話にならないだろう。しかも現行ノーズのストックはもう可夢偉が装着中の1つしかないとのことで(エリクソンは旧ノーズ)、うっかり滑って壊すわけにはいかない…。
- ペレス、髭が伸びている。イメチェンか?ちょっとカッコいい…
- 昨日気付かなかったのだけど、メルセデスは今回から新型ノーズを投入している。かなりのショートノーズだが、元々このノーズを前提としてマシン設計をしていたということで、だめ押しの本命投入ということになる。しかし雨模様じゃなかなか実力がわからないなあ。
- 今日もアロンソは鉄パイプ椅子に座っている。フェラーリはもうあのリッチなチェアを持ち込まないんだろうか。
- 昨日、曇り空の下なぜかブラックレンズのサングラス姿で立っている映像を抜かれまくっていたフェラーリ新代表、マルコ・マティアッチ。突然の人事からハードスケジュールすぎて4日間ほぼ寝ておらず、目の周りを隠す必要があるのだと疲れ切った様子で語ったという。かわいそうに…
Q1~Q3
- Q1。FP3をステイしたチームの目論見は外れ、シトシトと雨が降っている。マルドナドがFP3終盤のマシントラブルを引きずり出走できず、21台のセッションに。
- Q2。
- Q3。
- 今年のレギュレーションではアタック数を増やすためにQ3が2分延長されたが、実際にはESのレギュレーションのせいでむしろアタックのチャンスが減っているような気が。
- おさらい:ESの最大容量は4MJまで、但しMGU-KからESへのチャージは2MJ/1LAPまで。つまり、4MJフルチャージには2周かかり、2周に一度しか4MJフルパワーで走ることができない。アタックラップ(の特にセクター3)でミスしてしまった場合、次のアタックラップは2周後ということになってしまう。アタックラップが2回欲しければ燃料はチャージラップの1周分多く積まなければならないし、追加された2分なんてチャージラップ1周分でしかない…
- 予選結果
- P1.HAM P2.RIC P3.VET P4.ROS P5.ALO - P18.KOB (公式/日本語)
- チーム別
- AMG-RBR-RBR-AMG-FER-WIL-WIL-FIN-STR-LOT
- PU別
- M-R-R-M-F-M-M-M-R-R (M5-R4-F1)
※審議無し。P22.MALは前戦より5グリッドペナルティだが、予選DNSのためグリッドへの影響無し。
決勝
- リザルト
- P1.HAM P2.ROS P3.ALO P4.RIC P5.VET - P18.KOB (公式)
- チーム別順位
- AMG-AMG-FER-RBR-RBR-FIN-WIL-FER-FIN-STR
- パワーユニット別順位
- M-M-F-R-R-M-M-F-M-R (M5-R3-F2)
全体としてみるとかなり落ち着いたレースで、審議なし、SCなし、天候安定、目立ったバトルも無し、そしてリタイアもわずか2台に留まり完走20台…という結果。悪く言えば、いわゆる眠くなるレースというところか。
盤石のメルセデス
フォーメーションラップを終えグリッドに着く直前、ハミルトンが大幅に減速してレッドブルを牽制。今週に入り「我々は既にリードを失いつつある」というコメントをし始めたメルセデスだが、泥臭い戦いを忘れないのもまた驕らぬ気合いの表れか。
ロズベルグはフォーメーションからテレメトリが動作しておらず(国際映像では数字が出ていたのでピット側の受信が故障したのだろう)、スタートに失敗。レース中もステアリングに表示される情報を逐一ラジオで報告しながら走る。終盤、毎週毎週燃料を読み上げさせられることに疲れて「もうめんどくさい」。
それでも、終わってみればやはり盤石、3戦連続の1-2フィニッシュ。さらにハミルトンはハットトリックを達成した。
フェラーリ、今季初の表彰台
新体制への移行と共に、アロンソが今季初の表彰台を獲得。しかし、表彰式でも会見でもあまり笑顔がなく、喜んでいるようには見えない。外から見る限り、ここまでを考えれば悪くないリザルトだ。しかし、そんなところで満足している場合ではないのだろう。
ところで、ライコネンの存在感が…
ベッテル、繰り返す屈辱
ベッテルの力が出ない。今週もまたリカルドを先行させるよう指示を受けるが、一旦は拒絶するような素振りを見せる。「リカルドを先行させろ」「彼はどっちのタイヤを履いてる?」「(VETと同じ)プライム。でも彼の方が(3周)新しい」「tough luck.」しかし結局は、きっちりとリカルドに道を譲った。
結局そのままリカルドの後塵を拝し、レッドブルのリザルトはP4.RIC/P5.VET。ベッテルは新加入のリカルドに完敗を喫した週末で、そろそろファンからの目線も厳しくなってきているようだ。
不運続くマッサ
マッサのスタート。あまりにロケット過ぎる最高のスタートが決まったせいで逆に行き場を失い、アロンソと接触してしまう。リプレイを見る限りはアロンソがマッサに気付かずラインを閉めすぎているように思えるが、幸か不幸か双方大きなダメージがなかったため、審議すらも行われなかった。
さらに不運は終わらない。P5を走行していたL11、タイヤ交換中にホイールナットトラブル右リアと左リアを取り違えてしまうというミスが発生。1分を優に超える『タイム表示も消えてしまうくらいの』長いピットタイムを喫し、レースから完全脱落。P15で今週を終えている。
微妙に目立つケータハム
34周目、ベッテルのチームラジオが流れる。VET「おい冗談だろ!見たか!?(ケータハムに)ぶち抜かれたぞ」「彼はニュータイヤの2周目なんだ、速くて当然だ」なんと、Snで第3スティントに入ったばかりの可夢偉がベッテルを捉え、あっさりとぶち抜いてゆく姿がオンボードリプレイに映っている。様々なタイミングが重なった偶然の出来事だが、それにしても珍しい光景だ。さらに続けて、ケータハムから可夢偉へのチームラジオ。「可夢偉、ベッテルを突き放すんだ。青旗を振られてしまうぞ」なんと!ケータハムのエンジニアが!「ベッテルを突き放せ」と言っている!!まるでトップチームのラジオを聞いているようだ…。これは今週一番のfunnyな瞬間だった。
そしてまさかの、幻の2周。最終盤、3ストッパーの可夢偉が2ストッパーのビアンキを完全に捉える。LTを見る限りペースは大きく上回っているが、青旗が続くタイミングに当たってしまい度々バックオフ、抜くに抜けない。それでもなんとか最終ラップ(L56,1ラップダウン)第3セクターでビアンキを抜き、P17でフィニッシュした…かに見えた。
表彰式後、レースコントロールの不手際により、規定よりも2周少ないL54でレースが終了していたことが発表される。これにより、可夢偉の順位はオーバーテイク前のP18で確定となってしまった。ありえない出来事だが、実際のところこの件がコンストラクターズランキングへ影響する可能性はかなり低く、気分の問題というレベルだろう。気にしない方がいいし、実際、本人もさほど気にしてはいないようだ。それでいいと思う。
一方、ビアンキは「可夢偉の前でフィニッシュできて嬉しい」とコメントをしている。いやいや…。そこはオーストラリアGPのマグヌッセンのようにコメントしておくのが大人だと思うぞ。正直、イメージダウンだなー。
そんなこんなで、なぜだか変に存在感を示したケータハムなのでした。
今週の名言
!今回おぼえたこと ?まだよくわからないこと
- !ピットサイン
- ピットサイン(サインボード)はメルセデスチームが発明したもの。それが今では世界標準に。
- !hit the beep
- ローギアでは従来通りレブリミット(≒シフトアップポイント)でビープが流れるが、7速8速辺りでは、リフトオフポイントでビープが流れる。
- ?レッドブルのルノーワークス待遇
- レッドブルはルノースポールからワークス待遇を受けているが、今年のPUも無償提供の契約なのだろうか?今年に限っては本来PUに充てられた資金が余っているなら有償購入としてルノースポールを援助してもいい気がするが…
- ?ロリポップマンの位置
- みんなピットロード側にいるけど、あれってガレージ側にいた方がアンセーフリリースやアーリーリリースを防げるんじゃないか?ピットロードとホイールガンクルーを同時に見るにはガレージ側からの方がいい気がするけど…ガレージ側はジャッキが逃げる側だからダメか?ジャッキこそピットロード側へ逃げればいいのでは…
以下、GPニュース4/25回より
- !フェラーリ代表マルコ・マティアッチ
- 川井ちゃんも名前を知らなかったらしい。本当にF1に縁のなかった方なんですね。
- !スタート時に要求されるドライバーの仕事
- フォーメーションラップのプラクティススタートと同じ位置にマシンを止めること(グリッドボックスからはみ出さない範囲で右へ寄せたり左へ寄せたり少しナナメに向けたり)。スタートから数秒間、ハンドルを動かさずに真っ直ぐ進むこと。(もちろんスタート反応速度やクラッチミートのタイミング(2.5秒後に完全リリースだったっけ?)を正確にこなすことも大事)
- ?リカルドはアロンソに追いつけた疑惑
- ベッテルにブロックされた2周で失った対アロンソのギャップは約3秒、フィニッシュ時のギャップは約2秒(フルラップ56周目では1.2秒)。直線スピードの違いがあるので抜けたかどうかはともかく、実は追いつくことはできた可能性が高いのではないか?
- !リフトアンドコースト(3)
- レースカーでは、惰性で車を進める(=アクセルもブレーキも踏まない)状況は通常ない。今年のF1では、メリットは3つ。回生率向上、燃料節約、タイヤの節約。そしてデメリットはもちろん、タイムが犠牲になること。特に、ブレーキ/タイヤが冷えてしまうことによる影響は、リフトしたコーナーだけでは済まない。リフトタイムは約0.5秒程度、長くて1秒程度。リアのスタビリティを確保するために、DRSを手動で切ってからリフトするチームもある(少なくともメルセデスはそうしている。DRSはブレーキを踏み込む以外にもアクセル開度が一定以下になることでも自動でオフになる仕様がメジャーだったはずだが、そのロスタイムすらもカットしている?)。
総括~次回展望
各チームの拠点から遠く離れたアジアの地へ飛び、開幕から僅か1ヶ月に3レースを戦う、ハードなアジアラウンドが閉幕した。小難しい総括をする必要もないほどに、メルセデスが圧勝した4戦であった。
注目すべきは、信頼性だろう。新技術規約による信頼性問題はプレシーズンから最も懸念されたが、恐るべきことに僅か1ヵ月で大幅な改善を見せ、中国では22台中20台が完走。金曜から通して見ても、致命的なトラブルを起こしたマシンはほとんどいなかった。もはや信頼性の問題は片付いたと言っても構わないだろう。意外になんとかなるんじゃないかと思っていたのは確かだが、これほどの短期間で終息してしまうとは思わなかった。棚ボタが狙えると期待されたCクラスのチームにとっては非常に手痛い状況でもあるが、それよりも、F1という世界の恐るべき技術力・開発力に敬服せざるを得ない。
F1サーカスは3週間のブランクに入り、次戦スペインGPからヨーロッパラウンドへ突入する。この3週間で各チーム最初の大幅アップデートが施され、戦力構図にも変化が見られるだろう。
信頼性は落ち着いたものの、依然として戦闘力が不足しているルノーPUの改善が特に注目される。メルセデスのリードが圧倒的なためまだまだ他チームからは手が届かないだろうが、シーズン中の開発力が特に優れるレッドブルに関しては、いいところまで伸びるかもしれない。それもやはり、ルノーPU次第だ。また、4戦目にして表彰台カムバックを果たしたフェラーリの改善にも注目である。